識者によるおすすめの作品コメント 平野雅彦
平野雅彦 Hirano Masahiko
元・国立大学法人静岡大学 客員教授/特任教授。
アートマネジメント、広報・広告。地域芸術祭ディレクター。
アーツカウンシルしずおか特別相談員、静岡県広報業務アドバイザー、静岡市文化振興審議会会長、三島市文化振興市議会会長、島田市博物館運営協議会委員、静岡市文化振興財団評議員、静岡音楽館AOI市民会議委員、元・芹沢銈介美術館運営協議会会長 等々。
各種審査員、執筆多数。
にゃき、家族になる |
廣瀬 綸子 |
Rinko Hirose |
沼津特別支援学校 中学部 1年 (2023.7.27現在)
【画歴】
ベルナールビュッフェ美術館主催
「ちいさなアーティスト展 第42回 絵画展」
特別支援学校・学級の部 金賞 受賞
識者おすすめのコメント
静岡県庁の待合スペースに腰掛けたら、何かの視線を感じた。その視線の先に目やると一匹の猫と目が合った。一旦、目が合ったら逸らせなくなり、わたしは吸い寄せられるようにその猫に近づいていった。壁に掛けられた一枚の絵、それが「にゃき」とのはじめての出会いである。
やわらかな光の中に佇む猫のにゃき。ニャ〜ンと鳴いて立ち上がった瞬間を描きとったのか。うっすらと笑みを浮かべているようにも見える。何かを主張しているわけではないが、それでいて圧倒的な存在感がある。背景の木々は、ハートにメタモルフォーゼして、廣瀬家の「家族」となったにゃきを包み込む。それは飼い主である綸子さん自身の心模様であろう。
紙の上を素早く走るキットパス。けっして、うまく描こうなどとしない。恋しくて恋しくたまらない、だから描かずにはいられない。そのために猫は猫の本質に限りなく迫っていく。
ずっとにゃきを見ていると、もはやにゃきなのか綸子さんなのかすらわからなくなっていく。きっと綸子さんは、にゃきを描きながら『胡蝶の夢』(荘子)の世界をたゆたっているのではないか。そこでは、猫と自身の境界、現実と夢との区別を論じるなど何の意味ももたないことを教えている。
綸子さんは、化粧品を画材にして猫を描く(作品「プリンセス」)。そのやわらなか毛並みからは、猫の匂いすら漂ってくる。更にそこに評者の飼い猫との想い出が重なっていく。ニャ〜ン。