識者によるおすすめの作品コメント 中津川浩章

中津川 浩章  HIroaki Nakatsugawa

アーティスト/アートディレクター 表現活動研究所ラスコー代表
1958年静岡県生まれ。作品制作および多様な分野で社会とアートをつなぐ活動をおこなう。
表現活動ワークショップ、バリアフリーアートスタジオ、美術史WS、講演等で表現することの意味と大切さを伝えている。
障害者のためのアートスタジオディレクション、展覧会企画・プロデュース、キュレーション、選考委員など多数務める。
「岡本太郎とアールブリュット」(川崎市岡本太郎美術館)、「about me~わたしを知って~」「ビッグ・アイアートプロジェクト」(国際障害者交流センター)、「埼玉県障害者アート企画展」、日本財団DIVERSITY in the ARTS公募展、Art to you!東北障がい者芸術全国公募展、宮崎県国文祭・芸文祭障がい者アート展ほか。
NPO法人エイブル・アート・ジャパン理事、認定NPO法人アール・ド・ヴィーヴル理事、一般社団法人Art Inter Mix代表、一般社団法人Get in touch理事。

鳥と見た風景

山田 悦久

Yoshihisa Yamada

紙にマーカー   728mm×1030mm

1976年生まれ。菊川市出身。就労継続支援事業所B型利用。
聴覚障害と自閉症を患いながらも簡単な手話と筆談、ジェスチャーでコミュニケーションを取っている。
30歳の時から事業所の絵画クラブに参加して絵を描くことの楽しさを知った。
発色の良いマーカーを使って全紙サイズの紙に描く。
同じモチーフを同じ構図で気が済むまで何枚も何枚も描き続けることが多いため、伴走者である支援員が作家に創作意欲のわく素材を提示し、選択してもらうことで画風と表現に広がりが出てきた。
現在では「絵を描くこと」が生活の中で一番の喜びとなっている。

 

 

 

識者おすすめのコメント

「まちじゅうアート」プロジェクトで初めて山田悦久さんの作品を見た。
自然と体がリラックスして思わず笑みがこぼれる。あたたかくほのぼのとした感覚に包まれる絵だ。
ユーモラスに抽象化されたな建物やまち並み、鳥の目線で眺める垂直な構図、動物や植物たちの愛らしく柔らかな存在感。
流れているゆったりとした速度感が心地よい。
カラフルで装飾的な窓や扉がならんだ伸びやかな空間は、ウィーンの画家・建築家フンデルトワッサーを彷彿とさせる。
表現されたものに向き合うとき必要なのは、正解をさがす解釈や美術史の知識ではない。
「感じること」に率直に正直になることだ。理屈や正解でがんじがらめになった感性をゆるやかに溶かしてくれる力がアートにはある。
みずみずしい感性を共有できた時、見ている自分自身の人生もまた豊穣になっていくだろう。
このプロジェクトによって作品がたくさんの人と出会い、障害特性への理解を深め、地域に新たな関係を築くことができたなら、互いに得るものが豊かにあるはずだ。この試みを応援したいと思う。

作者その他の作品

「建物のある風景」
紙にマーカー・ペン 728mm×1030mm
「町並み」
紙にマーカー・ペン 728mm×1030mm