識者によるおすすめの作品コメント 木下直之

木下 直之  Naoyuki Kinoshita

静岡県立美術館館長、神奈川大学教授、東京大学名誉教授
1954年浜松市生まれ。東京藝術大学大学院修士課程中退。兵庫県立近代美術館学芸員、東京大学総合研究博物館をへて、東京大学大学院教授(文化資源学)。
現在は静岡県立美術館館長。
近代日本美術を中心に、写真、建築、記念碑、銅像、祭礼、見世物など社会や国家にかかわる表現、物質文化全般について幅広く研究を行う。
忘れられたもの、消えゆくものなどを通して日本の近代について考えてきた。2015年春の紫綬褒章、2017年中日文化賞。

 

 

楽しい床屋さん

松井 久悦

Hisayoshi Matsui

カレンダーの裏紙にマーカー 297mm×420mm

1998年生まれ。菊川市在住。
小学校2年生の時に手首の硬さを補う目的で始めた「円を描く」という訓練がきっかけとなり、絵描き歌で楽しさを知り、絵を描くようになった。
その後、言葉ではうまく伝えられない出来事を伝えるため、広告チラシの裏面にマーカーで絵を描き始めた。
彼にとって「描くこと」とは日常に起こった出来事を家族へ伝えるための手段となっている。
ツルツルした広告やカレンダーの裏面に描くことを好み、時に3〜4枚の絵を同時に描くこともある。
現在も「日常」を思うがままに、独自の視点で描き続けている。

 

 

識者からのおすすめコメント

絵を前にして、実は誰もがいろいろな見方をしています。瞬時に見る、というよりも、絵の方から飛び込んで来ることもあれば、立ち止まってじっくりと見る、繰り返し見る、という具合にです。美術館などから提供される情報に縛られないために、瞬時に見ることをお勧めします。
あまり考えない。何かが残る。それは何だったのかと思い返すことも絵を見る楽しみです。
松井久悦さんの絵には強い残像がありました。珍しく室内を描いているからです。
遠くから風景を眺めているのでも、外国の珍しい建物に惹かれたのでもない。日々の暮らしの中で気になった光景を描いている。そこに松井さんがいるという感じが伝わってきます。
知的障害のある人の絵では、あふれるばかりの色彩がかたちを凌駕することが多いのですが、松井さんの絵は色がかたちと拮抗している。おそらく、松井さんは横縞が好きなのですね。
床屋の赤・黄・青のねじり棒が絵の中できりりと効いています。

 

 

 

作者その他の作品

「おばあちゃんの背中」
紙にマーカー 210mm×297mm
「安倍川と富士山」
紙にマーカー 297mm×420mm